第2話 隣の芝生は焼け野原

カボチャを牽きたくて入社をした残刻(のことき)商事。しかし、バシャ馬くんに待っていたのは、カボチャを牽く仕事ではありませんでした。


これから、どうする?お前もカボチャが牽けないなら、この会社にいる意味は無いだろ?

う、うん・・・

じゃ、さっさとこんな会社やめて、ちゃんとカボチャが牽ける会社、捜そうぜ。

そう・・・そうだよな。

視点が定まらないままパソコンの画面を眺めながら、バシャ馬くんは、これからどうしようか悩んでいました。自分とシカくんの他に誰もいない、机の上にパソコンだけが置かれている部屋。時々バシャ子が様子を見に来るだけの部屋。時計の音がカチカチと響くだけの部屋。まるで、白い壁に囲まれた塀に入っているような息苦しさに、今にも押しつぶされそうでした。

それにしても、あのバシャ子さんって、いったいどんなカボチャなんだろ。

求人には「社内ナンバーワンの美人カボチャ」って書いてあったよ。

うーん、まぁ、綺麗っちゃ綺麗だけど・・・性格がなぁ・・・

バシャ子登場

誰か今、私の悪口言っただろっ!

勢いよくドアが開けられ、物凄い剣幕の顔をしたバシャ子が入ってきました。

バシャ馬、お前、今、悪口垂れてたろ?

い、いえ・・・

んじゃ、シカ、お前って事だな?

いえ、悪口なんて言ってませんよ。

そうです!
僕は求人票のバシャ子さんを見て、応募したって話をしてただけです。

んーーーーーー?
じゃ、私が綺麗だと、言ってたのかい?

そ、そうです・・・(汗)

あら、そういうことね。
写真写りもいいけど、実物も綺麗って言われるのよね〜♪

そ、そうですよ!
バシャ子さんは、写真よりも実物の方が・・・
断然綺麗ですよ!(怯)

当然よねぇ〜。
って、無駄話してないで、さっさと手を動かすのよ!
じゃ、私は打ち合わせ行ってくるから、しっかり進めておきなさい!

そういうと、バシャ子は機嫌良く部屋を出て行ったのでした。

バシャ子さんって、やべぇな。って、この部屋、盗聴器あるんじゃねぇ?

不用意に喋れないな。

じゃ、メールとかにするかい?

メールもダメだって。
この社内規定、読んだか?

ん?まだ全部読んでないけど・・・

「社内のメールサーバを通るメールは全て管理者が閲覧し、プロジェクトの進捗状況などの把握し、遅延が起こらないよう監督をします」って書いてあるだろ?

こ・・・これって?

そう、全部、会社が管理してるってことだよ。

!

あとは「1秒でも遅刻したら始末書を提出しなければならない。また始末書は減俸などの対象に処す」っていうのもあるから。

じゃぁ、これは・・・

そういうことだよ。

マジか・・・ってことは、この会社は

そう、ブラック企業だったってことだよ

そ、そんな・・・

バシャ馬くんとシカくんは、すぐに状況を理解しました。
残刻商事は、ブラック企業だったのです。
カボチャが牽けると思って入社したのは大きな間違いだった。と、気づいた時には既に時遅しでした。


うわ!
これもヤバイぞ!

「退社をした者は、同業他社への転職及び起業する事を禁ずる。」
こ、これって・・・

噂には聞いたことある、治外法権ってやつだ。

ば・・・万事急須・・・

同様し過ぎて、漢字間違えてるぞ

お前もだよ・・・

あまりの動揺に、2匹は遠い目をするしかありませんでした。今までいた会社がホワイトだったという事を再確認し、隣の芝生は青く見えただけの焼け野原だったという現実。そして「夢」では生きてゆけないということを理解したのでした。

ひとまず、今日を乗り切ろう。
これからのことは、今日、この会社を出てから、考えよう。

そ、
そうだな・・・

こうして、バシャ馬くんとシカくんは、18時の定時までパソコンに向かいながら、会社の概要や社員のリストを見ていました。定時から10分、20分・・・30分と、時間が経っても、バシャ子が現れる気配はありません。

バシャ子さん、来ないけれど、先に帰って良いんだろうか・・・

もう少し待ってみて、来られなかったら帰ろうか

40分、50分・・・そして1時間が経過しましたが、やはりバシャ子は部屋にやってきません。

そろそろ・・・帰ろうか

うん、そうしよう

2匹は身支度をし、部屋のドアを開けようとした瞬間、バシャ子が血相を変えて飛び込んできました。

ちょっと、あんた達、何帰ろうとしてるのよ!緊急の仕事がさっき入ったから、ちょっと手伝ってもらわないと困るわよ!

え・・・

そ・・・そんな・・・

明日の朝までに、この資料をまとめて、客先に提出しないと、契約が切られるかもしれないわ。そうなったら、貴方たちの給料だって出せなくなるのよ!この緊急事態がどれだけ大きいことなのか、あなた達ちゃんと分かってる?

今、聞いたばかりで、何がなんだか・・・

口答えするな

口答えするんじゃないわよ!やるしかないのよ!

う・・・うぅ

・・・やるしか無さそうだな

こうして、バシャ馬くんとシカくんは、仕事初日から緊急対応をすることになったのでした。何時に帰ることができるのか・・・そもそも、明日の朝までに終わらせることが出来るのか・・・それさえ分からない、暗黒の世界に飛び込んでしまったのでした。

お、お腹空いたなぁ・・・

あ、確かに・・・あまりのショックで空腹も飛んでたけど、お腹空いたかも

まったく・・・仕事も出来ないのに、腹が減ったとか贅沢だな。じゃ、今日は特別に私が奢ってあげるわ。

そういうと、バシャ子は部屋を出て行きました。

バシャ子さん、少しは優しいところあるんだな。

そうみたいだな。

きっと、山盛りのニンジン買ってきてくれるよ!俺には・・・鹿せんべいかなぁ〜

じゃ、仕事頑張っておくか

だな!!!

バシャ馬くんとシカくんは、バシャ子の帰りを待ちながら仕事をしていました。しかしバシャ子は、20分、30分が経っても帰ってきません。再び部屋でバシャ子を待つ事に成り、その時間は永遠かと思えるほど長く感じました。

バシャ子さん、帰ってこないな。俺たちの事を忘れてるんだろうか

まさか・・・

そして、40分、50分・・・時間はどんどん過ぎてゆきますが、バシャ子が帰ってくる気配はありません。

おい、まだ帰ってこないぞ・・・

確かに、遅いな・・・ お腹空いたな

あ・・・良いことを思いついた。バシャ子さんの噂をすれば、現れるんじゃない?

まさか・・・

試してみるシカないな。

うん

バシャ子さんってさぁ、結局、俺らを放っておいて、自分だけ飯を食べて・・・

バシャ子登場

おい、シカ、お前、今、悪口垂れてたろ?

や・・・やっぱり・・・

やっぱりってどういう事だ?

いえ、きっと食事をする暇も無いほど、バシャ子さんも大変なんだって、シカくんと話してたんですよ。

そうです、今もきっと誰かに呼び止められて、食事も出来ない状況なんだろうって、そう話してたんですよ。

そんな風に聞こえなかったけど・・・まぁ許してやるか。

と、ところで、晩ご飯は・・・

あ、そうだった。晩飯だったな。私はバーガーキングを買って来たし、お前達にはこれを買って来てやったよ。

え・・・

そ、そんな・・・

2匹に渡されたのは、100円ショップで売られているプライベートブランドのカップラーメンでした。

なんだ? 文句あるなら、食べなくて良いぞ

い、いえ・・・

いただきます。

飯

こうして、バシャ馬くんとシカくんは、晩ご飯にカップラーメンを食べる事になったのでした。その後、2匹は一睡もする事無く書類をまとめ、なんとか朝までに間に合わせることができたのでした。

こうして始まった2匹の社畜生活。この後、更に過酷な日々が待ってることを、2匹はまだ予想すらしていませんでした。いや、知らないから幸せだと思えるのかもしれません。

次回「シカ+ウマ=新入り登場?」をお楽しみに!

楽しみになんかできないんだけど・・・でも、今週は、奢ってもらったから、文句いいにくい・・・。

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